よみタイで連載されていた野原広子さんの「今朝もあの子の夢を見た」、とうとう単行本が発売されました。
※1話~6話まではこちら↓で読めます
はぁ~、そう来るか~、というじわっと涙の出る結末でした。
私は離婚家庭じゃないし今のところ離婚する予定もないのですが、それでもいろんな立場の人のことを考えさせられました。
野原広子さんの作品はいつも、自分の事じゃないのに自分に重ねてしまう、本当に素晴らしいですよ。
じゃあさっそくストーリー解説しながら感想を書きたいと思います!
「今朝もあの子の夢を見た」あらすじ(結末ネタバレあり)
登場人物
山本タカシ・・・スーパーに勤務する42歳のバツイチ男性
鈴木真美・・・タカシの勤めるスーパーに転職してきた30歳の女性
バツイチ男性と独身女性
スーパーに勤務する山本タカシはバツイチ独身、特になんの楽しみもなく淡々と仕事するだけの生活。
10年前、妻と娘が突然家を出ていった。そしてそれ以来娘に会えていない。そのことを思い出すと今でも辛い。
タカシのスーパーに転職してきた真美。実は5年付き合って結婚しようと思っていた彼氏に浮気され、心機一転の転職だった。そのことで現在は男性不振ぎみでもある。
なにかと真美の世話を焼くタカシ。真美は気味悪く思いながらもタカシといると安心する自分に気付く。
娘は妻に誘拐されたんだ
真美は噂話で聞いて気になっていたことをタカシに聞いてみる。
「どうして娘さんに会えないんですか?」
「娘は妻に誘拐されたんだ」
タカシによると、娘が7歳の時に別れ10年会ってないから今は17歳。どうせ妻に悪口を吹き込まれて洗脳されてるだろうから娘から自分に会いに来てくれることはない。
それまで暴力なんてふるってないし、家事育児も手伝っていて、自分には何の非もない。養育費だって払っている。
月1回娘に会わせてもらえる条件で離婚したのに、約束は一度も守られない。
娘に会いたい
真美はタカシのことを心の底からかわいそうに思い、協力することにした。
タカシの娘の名前をインターネットで検索し、現在通っている高校の名前を突き止める。
それを手掛かりに高校の門の前で娘の姿を探すタカシ。すっかり変わってしまっていた娘のさくら。連絡先と手紙を渡す。
タカシの娘のさくらはコンビニでアルバイトをしている。タカシからもらった手紙を「知らないおじさんからもらった」と読まずにそのままコンビニのシュレッダーにかける。
父親に会わせたくないわけじゃなかった
春になりさくらは高校を卒業、再び居場所がわからなくなってしまった。
さくらが会いに来ることはなく、ますます落ち込むタカシ。真美は自分が余計なことをしたからだと、責任を感じる。
さくらの母親(タカシの元妻)が一人暮らしのさくらの部屋を訪ねる。タカシからの養育費には感謝しているけど娘を一人で育てるのには全然足りない。
タカシの元妻は回想する。何度も話をしたのに、タカシは本気にしてくれなかった。どうなるか怖かったけど、家を出るしかなかった。
離婚調停ではお互い罵り合って泥沼に。離婚は望んだけどさくらに父親に会わせたくないわけではなかった。だけど…(ここでさくらが泣くコマ)
洗脳
真美は元同級生の高岡君と結婚した。タカシを心配し過ぎてのめり込む真美を友人が心配して、出会いをセッティングしてくれたのだ。
タカシは真美の結婚式で号泣。年齢は違えど真美を娘のさくらと重ね合わせていたのだ。
旦那の転勤についていく真美。スーパーは退職し、タカシともさよならする。
真美は夫と引っ越し先で居酒屋に行く。
アルバイトの女子学生を見て、タカシの娘さくらのことを思い出す。
酔っぱらってつい、「私の知り合いのお子さんもあなたぐらいで。別れた奥さんが子どもにお父さんの悪口吹き込んで洗脳して、会わせてもらえないんだ。お父さん泣いてるのにな。」と口走る。
そのアルバイトの子こそさくらだった。
さくらはバイトの帰り、
「うちの母親、父親の悪口なんて言ってなかった」
と友人に話す。
すると心理学専攻の友人が
「悪口言わなくても、言葉はなくても洗脳はできる」
と。
封印していた記憶
さくらはずっと心に封印していたことを思い出していた。
両親がケンカしていたこと、離婚して、急に転校して、いじめられ…。
父親とたった一度小さな部屋(裁判所?)で面会して、その後の母親の、冷たい顔。
心を正常に保つため、生きていくために、お父さんのことを忘れ離婚は平気と思い込んでいた。
高校生の時、父親が校門に訪ねてきた日のことを思い出した。ごめんねお父さん。
タカシは夢を見た。小さなさくらと自転車に乗る練習をしている。
「ちゃんと前を向いて!」
大きくなったさくらが
「お父さんも!」
電車に乗り、さくらが向かった先は…。
(最後のセリフはぜひ単行本をお読みください!)
「今朝もあの子の夢を見た」最終回まで読んだ感想
じんわりくる結末でした。
衝撃の展開!を期待していた自分がバカらしくなるような…。
真美とタカシが恋愛関係になることも、タカシが実は悪い夫でも、母親がとんでもなく悪い女でも、なかったのです。
拍子抜けなような、いやでも現実はこんなもんだよなと思ったり。
母親は子どもを洗脳して父親から遠ざけていたわけではなかった。ただただ母子2人で生きるのに必死だった。
さくらは父親のことが本当は大好きだった。でももう幸せな家族3人には戻れないし母親を悲しませたくなかったから、父親のことを忘れることで自分を保っていた。
タカシは…。
タカシ視点では「何も問題なかったのにある日突然妻が出て行った」と語られていたけれど、さくら視点の描写では離婚前にしょっちゅう夫婦ゲンカする様子が描かれてましたね。
人は自分の都合のよいように解釈し、記憶を変えてしまいます。
離婚は悲しいけれど、誰かを悪者にしたところでしょうがなく、前を向いて歩いて行くしかない、そんな作品のメッセージを感じました。
最近ネット上では、離婚した元夫婦の男性が「母親が子どもを連れ去った、悪口を吹き込んで洗脳してる」と主張する場面をたびたび見かけます。
タカシとさくらみたいな理由かもしれないし、そうじゃないかもしれない。けれど前を向くしかないですね!
↓野原広子さん 『今朝もあの子の夢を見た』インタビュー↓
『今朝もあの子の夢を見た』単行本発売記念! 野原広子さんインタビュー「“正解”を描いちゃいけない本だと思った」 | 特集 | よみタイ
「元妻に子どもを誘拐された」知人の言葉に困惑…取材してわかった、“子に会えない親たち”の共通点 | 文春オンライン
まとめ
他にも野原広子さんの作品レビューをこのブログに書いています。
最新刊は離婚後のお話し。とってもリアル!
↓手塚治賞を受賞した大傑作!「今朝もあの子の夢を見た」が好みならこちらは必読です!
↓ママ友がテーマのこちら。とってもリアルでブラックな結末です。